誤解を招かないための長いタイトルにしたが、本記事の真髄はすばり、真空管変換ソケットの自作だ。
高名なアマチュア無線受信機 Collins 75S-3 はこの頃、自分のおもちゃに化している。真空管入門のきっかけをつくってくれた Collins に感謝だ。
さて、Collins 75S-3 の V5 として利用されている真空管 12AX7 は、高μ双三極管の9ピンMT管として有名。その兄弟に 12AU7, 12AT7 があるが、増幅率 μ の違い、100が12AX7、60が12AT7、20が12AU7といったぐあいに選別されている。μ=100が三極管では最も高いものらしい。トランジスタだと100はよくある増幅率であって、高いものは800~1000(超えるものもあろう)。真空管は増幅率が比較的低い。
ところで、知識が乏しく自分は 12AX7 の互換球を探しているが、なかなか見当たらない。しかし、ロシア系(その支援国である東欧や中国等)にはヒーター電圧が違うが、6N2 (さらにその軍用モデル 6N2P-EV 等)は他の電気的特性はよく似ている。6N2、あるいは 6N2P-EV を試してみたいひとは、ヒーターの違いを解消(あるいは吸収)する工夫をしないといけない。
下に 12AX7 と 6N2 のピン配置図を示す。確かにピンのアサインは同じだ。問題はヒーター電圧。12AX7 は型番のとおり、12.6V/0.15A をヒーターに使う。対して、6N2 は 6.3V/0.34A を使う。
12AX7のピン配置
6N2のピン配置
幸い、12AX7は Collins 75S-3 では、ヒーター電圧が2組の6.3Vの直列で供給されている。具体的には、ピン4-9 および 5-9 にそれぞれ 6.3V が与えられている。したがって、どちらかの 6.3V を 6N2 のヒーター電圧にすればよい。つまり、12AX7 の4-9、または 5-9 を、6N2 の 4-5 にすればよい。
Collins の基板回路を変えるなら、上記の変更は簡単に実現するが、12AX7 も 6N2 も使えることはできなくなる。そこで、変換ソケットの必要性が出てくる。つまり、ソケットのなかでヒーター配線を変えれば、変換ソケットを使わない場合は従来の 12AX7、6N2 を変換ソケットに乗せて使う場合は 6N2 が機能するわけだ。
自作した変換ソケットは下のようなもの。6N2 を変換ソケットに挿し、変換ソケットをさらに本来のCollins のソケットに挿すことで、6N2 が使えるようになる。
変換ソケット経由で 6N2 を使う。左はもとの12AX7A。
真空管変換ソケットはそれなりのニーズはあるはずだが、なかなか見当たらない。仕方なく、自作してみた。一連の作業は言葉で説明すると大変なので、一連の写真でその過程を示すことに留める。自己流なので、改良・改善はいくらでもできそう。
まずはピンの入手。たまたま手元にあったRS232Cの25ピンオス側を利用した。調べたら金メッキではないかもしれないが、秋月電子通商ではいまでも似たタイプが単価40円で販売されている。
分解
金メッキのピンをゲット。とても丈夫、太さは真空管のピンに似ている。
つぎに真空管ソケットの用意。9ピンソケットを2つ。少なくともそのうちの一つは分解できるタイプがよい。
そして分解、ハンダ付け。その作業を根気よくやっていけば完成。結果的にとても丈夫なつくりになった。押しても引っ張ってもひねてもびくともしない。
9ピンMTソケットを2つ
左側のほうは分解できるタイプ
左側のソケットを分解
入手した金メッキのピンを挿し込む
ハンダを流し込み、固定させる
さらに、2つのソケットをハンダづけして連結させる
各ピンの連結とリアサイン
できあがり。作業時間ははじめてのことで数時間かかった。
外周部にプラスチックパイプとかを装着すれば完璧かな
高さはピン部分を除くと約 26mm。工夫次第で20mmぐらいに低くできるかもしれない。透明か白色のビニールパイプを外周につければもっと格好よく、感電の心配もなくなるので、このうち適当なものを物色する予定。
こういうソケットは変換用だけでなく、各ピンの電圧測定や電圧電流のモニタリングにも活用できそう。Collins の電圧測定には自分はいつも緊張。ショートさせてはいけないし、感電の心配もある。こういうソケットがあれば大変助かる。
また、ヒーター電圧が低いだけの真空管、たとえば、4BZ6、5GH8A 等の真空管はヒーター電圧の違いで買い手がつかず、格安で大量に出回ったりする。変換ソケットではヒーター同士の連結に抵抗やダイオードを入れれば、電圧の違いを吸収でき、廃棄真空管の救出にも役立つ。
工夫次第で、真空管変換ソケットは使い道が多い。
さて、到着したロシア製 6N2P (キリル文字 6H2n)は 9303という日付があり、ソ連崩壊後の大混乱期に生産され流出されたものかもしれない。
ロシア 6N2P。ピン(足)の形は独特
米国、日本製 12AX7 との比較。双3極という部分はなんとかわかるが、作り自体は西側とだいぶ異なる。
左から 米国、日本、ロシア製
6N2Pを変換ソケット経由でコリンズに付けたら、ふつうに聴こえた。ノイズが若干上がった気がするが、感度もアップしているようだ。
なお、6N2Pの9番ピンは内部シールドの役目を果たすので、アースに繋ぐべきだとの意見が多い。元の12AX7にないピンなので、新たにリード線を台座の9ピンにつなぎ、シャシーのアースにつけていくことをやってみる。ノイズはこれで下がるだろうか。