JLH1969 キット

4、5年前に中国現地で購入したキットだと記憶している。購入後、自分で各パーツを丁寧にハンダ付けしたものの、ヒートシンクの調達や、電源の用意を考えるうちに、やる気が無くなり、そのままにしていた。

キットの内容はA級オーディオアンプ、J.Hood 1969が考案したもののようだ。プリント基板に「東海の声」(日本語だと「東シナ海の音」の訳になるが)という名称が書き込まれており、オーディオに拘った会社かグループがパーツを集め、自作キットとして売り出したものだと推測する。日本製は現地では人気がなく(少なくてもオーディオ愛好家の間では)、欧米のメタルキャントランジスタ 2N2907、2N1711、2N3055 をキットに使ったり、フィリップスのケミコンを採用している。抵抗器もFクラス(許容差1%)ものになっている。

見た目では良さそうなパーツを採用している
チューブラ型のケミコンは珍しい
メタルキャンTr にはやはり意気込みを感じる
基板の裏側

基板のパターンをトレースして、さらにパーツを確認しながら、回路図をおこしてみた。

本キットのプリントパターンをトレースしておこした回路図

電源としては+28V、容量1.5A以上のものが必要。調整作業として、①ケミコンC4のプラス側電圧(センター電圧)が電源電圧の半分(Vcc/2)、つまり14Vとなるように、R2(10回転半固定抵抗)を回す、②電源電流が1.5Aとなるよう、R7を回す。という2つのことをやっておく。

高熱を出すので、上記の調整作業は精密にやらなくても構わない。いや、精密にやっても無駄だ。

本アンプはAクラスで動作するので、ものすごい量の熱を出す。キットに含まれるヒートシンクだけでは通電して数分も経たないうちに60度を超えるので、より大型のヒートシンクに取り付けないといけない。ヒートシンクのサイズは大きければ大きいほどよい。たとえば、10キロものなら、電源電圧・電源電流をより高くして、よりパワフルにより高音質で音楽を楽しめることができるらしい。

理由は簡単。たとえば、本キットは定格出力が10Wだといわれる。この10Wは無論実効値のことで、正弦波の電圧振幅に直すと、スピーカを純抵抗8Ωだと仮定すれば、

Vp = √2 x √(WR) = √2 x √(10*8) = 1.414 x 8.94 = 12.6V

となり、ピークtoピーク電圧は倍の25.2Vとなる。一方、正弦波の電流振幅に直すと、

Ip = √2 x √(W/R) = √2 x √(10/8) = 1.58A

となる。キットに用意すべき電源である 28V/1.5A は 25.2V/1.58A に対してまったく余裕がないわけだ。できるならば、電源電流は1.6A 以上、あるいは余裕をもたせて 2A 位が必要だろう。

定格出力を100Wにしようとすると、電源電圧は80V以上、電源電流は5A以上にしないといけない。400Wの熱を放出するヒートシンクはどれぐらいのサイズになるんだろう。気になる。

さて、スピーカの代わりに8Ω / 100W抵抗を出力負荷として、そしてスイッチング電源、信号発生器、オシロをキットに繋いで、波形の確認をしてみた。

波形の確認
Vpp(ピークtoピーク電圧)が23V前後になると歪みはじまる
100Hzの低音域での方形波レスポンス
10kHzでの方形波レスポンス
20kHzの方形波(下の緑)に対するレスポンス(上の黄)
同じ20kHzでも、入力の振幅を半分にするとよりマトモにみえる

本キットはDCアンプではないので、低音(100Hz以下)や高音(20kHz以上)域ではあまり期待できないことは波形からもわかる。また、入力Vppが1.49Vに対して、出力Vppが約20.5Vだったので、増幅率は13.8倍、約23dBだというところは本来の設計値と一致している。20kHzに限らないが、入力の大きさが小さいと出力波形がマトモにみえることがあるので、めいいっぱいの波形で確認することが重要。インチキしたければ、出力電圧を数Vにすれば誤魔かせるかもしれない。

入力のVppが1.49VはCDプレーヤや、自作プリアンプの出力電圧に対しては十分小さく、問題なく10Wを出せる。

ここまで来たら、試聴したくなったのは人情というもの。さっそく、手持ちのアルミヒートシンクにマウントして、スピーカを繋ぎ、パソコン音源で聴いてみた。温度が気になるので、デジタルテスタで同時に測ることにした。

試聴

まあ、ふつうの音質に聴こえた。悪くもないが感動するものでもない。ただ、数千円のキットでここまで頑張れるのはやはり考えさせるものが多い。数十万円のアンプに対抗できるまでは言わないが、数万円ものや真空管アンプにひけを取らないと思う。1969年からの進歩はひとの感じ方がそれぞれだが、そんなにないと主張しても大きな間違いではなさそう。

温度は33度から、30分間試聴したのち、51度に上昇したが、上昇ペースはとても鈍い。室温は約18度なので、放熱ファンをつけなくても、電源電流をもう少し下げれば夏でもなんとかなるかもしれない。室内で聴くには、スピーカの定格出力が5Wもあれば自分としては十分すぎるから。

各抵抗両端のDC電圧を試聴中測ってみた。R0(37k)は3.913V、R1(100k)は10.39V、R3(8.2k)は1.29V、R5(2.7k)は0.722V、R6(100Ω)は4.845V、R7(1k)は7.52V、R8(2.2k)は0.736V。

R6を流れるDC電流が思ったよりも高く、48mAになっている。定格電力が2Wなら安心する。キット品のワット数はわからないが、いつか2Wのものに変えたい。

本日スイッチング電源を始終使ったが、ノイズ等を感じたことはなかった。3A(左右ステレオ)の定電圧を出すにはシリーズ電源ならとても苦労するが、スイッチングでは楽勝。PC用ACアダプターとして、24V/3-4A 程度のものは丁寧に探せば見つかるはず。

使用したスイッチング電源150mVp-p

秋月電子で探したら24V/4.3A というスイッチング電源ボードを見つけた。出力電圧は10%程度調整可能とのこと。売値はやや高く3,100円だが、産業用であること、1次側と2次側は絶縁されていること、各種保護機能が組込まれたこと、自然空冷方式(ファンレス)であること、リップルノイズが150mVpp以下であること、無償保証期間が5年であることなどから、良さそうに感じた。自分でシリーズ電源を用意するなら、電源トランスや大型ケミコン等を購入しても定電圧電源にならないし。

<参考資料>
JLHアンプに関する初期論文およびその後のアップデートをまとめたサイト https://sound-au.com/tcaas/index-1.htm

数ヶ月間そのままにしていたJLHアンプの電源部を作りなおした。影響のほどは分からないが、PICによるデジタル回路をやめ、今回はシャントレギュレータであるTL431とコンパレータLM339を利用した。

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やっと休みが取れたので、2時間じっくり出来立てのアンプで聴いた。音量が大きければ大きいほど、アンプの負担が軽くなるので、エアコンを効かせ、閉めきった部屋での大音量。放熱器の最高温度は50℃台で、60台になることはなかった。音色については自分がいうのも変だが、うっとりさせられたものだ。

さて、電圧増幅部電源部分があまったので、電源部全体の改造を考えだした。まず左右CHを分離させ、ぞれぞれに電源供給したい。250Wのトランスに、同一物を載せて、トータル500Wにする。12Wx2のAクラスアンプにしては、随分無駄な投資だと思うが、趣味なので、コストを考えること自体が無意味。

ケース内の温度がつねに50℃台と考えるべきなので、85℃対応のコンデンサはすべて撤去しないといけない。ダメとなる対象は平滑コンデンサ22000uFの4つ。他のケミコンは熱源にそれほど近くないし、105℃品なので、数年間はもつだろう。

それと、ブリッジダイオードはだいぶ熱を出している。放熱器を大型にすることと、ケミコンの近くに置かないようにしないといけない。

Aクラスアンプはこの一台で打ち止めになると思う。欲をいえば、パワーTrを追加して2パラにし、トータル8Aの電流を常時流すようにすれば、もっと低いインピーダンスにも対応できるかもしれない。しかし、それ以上の大食いアンプは節電が求められる目下の時代には合わない。

RC直列してスピーカのインピーダンス特性を改善するZobel networkがよく採用されていて、Cは0.01~1uF、Rは数Ωにしているものが多い。抵抗Rの定格電力をどうすればいいか、ついでにシミュレートした。

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上の設定ではアンプの出力電圧を40Vにした。6Ωのスピーカに対して、270W相当なので、充分高い値だ。また、周波数が高いほど、Cのインピーダンスが低くなるので、20kHzの正弦波出力で図示した。

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抵抗R1に流れる電流は最大約250mA、電力は最大0.55W。ただ、周波数10kHzでは、最大電流は120mA、最大電力は0.14Wに急減する。

結論として、Rの定格電力は0.5Wで充分。

つくったアンプでは、立ち上げ3秒後にリレーONするように設定してある。その限流抵抗のことがやはり気になり、再計算してみた。

<限流抵抗がない場合のシミュレーション>
 トロイダルトランスの2次側内部抵抗(R1, R2)は取り敢えず0.1Ωにし、大容量平滑用コンデンサの容量をアンプに合わせて44000uF、等価抵抗を0.05Ωにしてみた。

120830.png 120830-1.png

となると、LTspiceによる結果では、最大突入電流 I(R4) は約90A、60mS後にC1両端の電圧は約20Vに上昇した。採用したブリッジダイオードは最大瞬間170Aに耐えるもので、実害はないものの、やはり限流すべきだと考える。

<限流抵抗を付けた場合>
 そこで、R3, R4を10Ωにしてみた。

120830-2.png 120830-3.png

最大電流は約2Aに低減された。ただ、R3, R4にかかった瞬間最大電力は約45W。セメント抵抗であれば、5秒以内のパルスに対して、定格電力の5倍までが耐えられるようで、10Ω/10Wのセメント抵抗を使えば問題ないと見た。

ただ、コンデンサC1両端の電圧上昇は随分遅くなり、1秒後でも約14Vしかならない。ということで、リレーを1.5~2秒後にOnすればいいだろう。

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PICプログラム自体はすぐに終わったが、書きだすとハード的にバグってたことが多かった。PIC16F88の4番ピンは入力専用で、LED出力はできないことや、CCPは1チャネルしかなく、左右のファンを同じ回転数で回すしか無いとか。基板のパターンをカットしたりして、一通りイメージした動作ができた。

電圧増幅用電源のことは残っているが、いまのままでも問題なく聴けるので、修正することはしないかもしれない。良いと思ったことが返っておかしくした理由は知りたいけど。

今回一ヶ月に渡ったA級アンプづくりでは、終わってみれば、こうすればよかったと反省すべき点が多大にあった。次回に生かし、もっと納得のいくものを作って行きたい。ともあれ、長年の憧れであるA級アンプができたことで、夢がひとつ叶った。

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上の写真では、右から3番目LEDが点灯し、40℃台温度を示している。85℃を超えたらリレーをOffし、シャットダウンする。なお、写真からはわかりにくいが、左右ファンも温度に応じて回転数を変えている。

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盛大なハムが聴こえたので、トラベルシューティングを開始した。二日間かかった配線は振り出しに戻し、片CHまでをケースから取り外して、範囲を最小限に絞ってみた。それでもハムが消えなかった。

一晩頭を冷やし、電圧増幅用電源部を使わないことにした。元々の回路には電力増幅も電圧増幅も同一電源だったし、外しても原理上動くからだ。

しかし、見事にハムが消えた。原因は電圧電源部にあった。

さて、専用のトランスまで用意して、専用の電圧増幅用電源をつくったが、必要でないとなるともったいない気がしてきた。音質に影響がなければ、Simple is best、外すべきだろうけど。

なによりも原因がわかってほっとした。では、なぜ実験段階で気づかなかったのかというと、アンプのアイドリングが小さかったし(最大0.6A)、スピーカが身近になかったので、オシロでは観測できなかったと解釈できそう。ただ、いまではスピーカを繋げなくても、オシロでよく見れば、ハムが乗っかっていることがわかる。つまり、油断したことが最大の敗因。

原因がわかったので、取り敢えず電圧増幅用電源を外して、配線し直した。スピーカに耳を数cmまで近づけば、かすかなノイズは聴こえるが、そんなもんだろうと判断した。アイドリングを1Aにあげ、計4Aの電流が常に流れることになる。

週末で完成する予定だが、PICプログラムをこれからつくる。数日の遅れか。

取り敢えずアイドリングを左右とも0.85Aに調整し、DCオフセットを再確認して、スピーカに繋いで試聴した。

試聴時間が短いので、LM3886アンプとそれほど違う印象はなかったが、ノイズが酷かった。LM3886アンプでもデジタルアンプでも全く聴こえなかったノイズがスピーカからはっきりと聴こえてしまう。ちょっと参った。発振している可能性もあるし、配線の仕方によってどこかが変になっている可能性もある。PICはまだ載せてないので、デジタル回路によるノイズではないはず。

原因究明をしないといけない。なお、通電30分の時点では、温度センサの出力電圧によると、左右放熱器の温度はともに53℃に達した。ファンはまだ稼働していない。

オシロスコープで確認したところ、ノイズは100Hzハムのようだ。アース引き回しの問題とも考えられるし、トランス等からの誘導ハムかもしれない。何れにしても、退治するには時間がかかりそう。

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国会中継を聴きながら、配線を終えた。前回のLM3886アンプに比べて、結線がだいぶ増え、二日間もかかってしまった。ただ、PICはまだ載せてないので、安心して音楽を聴くにはもうすこじ時間がかかる。

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やっと片CHはなんとか形が決まったけど、トランスの太いリード線が邪魔になり、もう片CHは難しい。いま使っている15mm六角スペーサを25mmか30mmにしないとね。

それと、配線図をケース内に貼り付けておかないと、自分以外のひとはもっと苦労するだろう。次回にまたアンプをつくるなら、なるべく配線せず、基板だけで完結するようにしたい。

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