RMSメータとは、AC電圧の真の実効値を表示する計測器のこと。AC(交流)電圧は時々刻々と値が変わるので、その電圧の大きさを表す方法は様々。振幅(ピーク値)で表す方法もあれば、半周期の平均値(全周期だと平均がゼロになることが多いので無意味)で表す方法もある。その中で、もっとも一般的に使われるのは実効値。日本の家庭で使う単相配電の100Vというのも実効値のこと。最大値は141Vにもなるので、100Vを大きく超えている。

AC電圧のRMS値はよく使われるが、それを測るうまい方法はなかなかなかった。本機は史上初、真のRMSを計測できたものだったかもしれない。1964年から発売され、1984年後継機の3400Bにバトンタッチされるまで、計測業界では不動の座を占めていた。

さらにすごいのは周波数帯域の広さ(10MHzまで)、感度の高さ(最小レンジ1mV)、他メーカー製ACボルトメータを大きく超えていた。HPが凄かったのはつねに最強の計測器を出し続けていたことだ。

本機はまた横河電機との協力関係にあった時期の製品。60年代当時、日本の製品がアメリカ市場を席巻し、HPやテクトロニクスといったトップ企業も日本メーカーと合弁企業を作らなければやっていけなくなった。ロゴの「YHP」のYは横河電機を表す。

130310-1.jpg本機は昭和51(1976)年4月製。外観の状態はそれほどよくない。とくに気になったのはメータの目盛板、ペイントが一部剥がれている。しかし、内部には補修・改造の痕跡がなく、動作に問題ないようだ。

早速開けて中をみた。HPの製品は工芸品のようで、見ていていつも楽しく、感動的。

130310-2.jpgキーデバイスであるTC401-TC402。AC電圧とDC電圧の発熱を比較し、その差をDCに変えるもの。

130310-3.jpg日本のタムラ製トランスが使われている。TO-3 トランジスタが電源部に採用。

130310-4.jpgアルミ管2本は電解コンデンサのようだ。日本製ではない。本機の製造日付が押されている。

130310-5.jpg他社製ACボルトメータと比べて、中身が大変充実している。2ch搭載はやはりスペース的にも無理。

ノイズを計測したら、1mVレンジでもゼロのまま。10MHzまでの高帯域なのに。それでも、表示値が多少低下しているので、サービス・マニュアルに従って、調整作業を行った。

<調整>
① 電源電圧の確認(5-19)
基板A4の電源電圧 -17.5V、+75VをDMMで確認。多少のズレはあるものの、誤差範囲内にあるので、パスことにした。

② 低周波数の調整(5-21)
DMMをリアパネルのDC出力に接続し、フロントパネルのAC入力に10mVrms/400Hzを与えて、レンジSWを0.01Vにセット。

130310-10.jpg半可変抵抗R4を回し、フルスケールにした。

130310-11.jpg130310-12.jpg③ 1/10スケールの調整(5-24)
レンジSWを10倍の0.1Vに切り替える。半固定抵抗R7を回し、1/10になるようにした。

130310-13.jpg④ 1Vレンジの調整(5-25)
AC入力を1Vrms/400Hzにして、DC出力およびメータ表示を確認する。誤差がほとんど出ていないので、パスことにした。

⑤ 高周波数の調整(5-26)
AC入力を1Vrms/10MHzにして、DC出力およびメータ表示を確認する。5%以内の表示低下なので、パスことにした。

130310-14.jpg130310-15.jpg正確な調整手続きはサービスマニュアルに詳細に説明されているので、気になる方はぜひそちらをご覧ください。

<参考資料>
操作・サービスマニュアル(英文、1972年版) HP_3400A.pdf
操作・サービスマニュアル(英文、1986年版) YHP-3400A.pdf
後継機種 3400Bの取説書(日本語) HP-3400B.pdf
Geller Labs
Test Equipment Gallery

<2018.12.5 追加>
所有していく本機は日本向けに作られてもので、電源電圧は100Vのみ。また、入力部のA2基板には真空管 RCA nuvistor 7586 が使われている。その後の改良版は真空管の代わりに、JFETを使った。A2基板まるごとの置き換えだ。以下は追加した写真(レンジスイッチの周りや、A2基板、および RCA nuvistor 7586)。nuvistor 7586 はだいぶ昔に製造中止だが、欧米では新古品としてまだ販売されていて、Ebayより1本数千円で入手できる。

入力レンジスイッチの周り(1)

入力レンジスイッチの周り(2)

基板A2

基板A2

RCA nuvistor 7586

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