木村俊一著 『連分数の不思議 — 無理数の発見から超越数まで』 (講談社、2012年)

不思議な本。啓蒙書かというと、難しいことにも触れている。著者は広島大学理学部数学科の教授らしい。この本を手にした理由は書名に「超越数」というキーワードがあったから。無理数はよくわかるが、その中に含まれる超越数は正体がなかなか現れない。たとえば、円周率π やネイピア数 e が超越数だが、π + e は超越数かどうかはまだわかっていない。

いくつか、気になったことをメモしておく。

◯ 小数(有理数)を連分数で表現する

小数の逆数を計算していき、それぞれの商を書いていくと、連分数になる。循環小数(つまり、有理数)なら、どこかで計算が打ち止めになる。

例: 1.2708333… の連分数化

140305-3.png

連分数をさらに、ふつうの分数に直すこともできる。

140305-4.png

勿論、連分数を使わず、小数から直接分数に直すこともできるし、より簡単だ。

しかし、有理数の小数でも、計算はつねに誤差が伴うため、対応する連分数を正しく得ることができるか、自分は懐疑的。

例えば、本書では、1.234567890123456789012… という小数の連分数化(あるいは分数化)は失敗している。100 / 81 という分数にしたら、PCの電卓で小数に直すと、1.2345679012345679012345679012346 になり、数字の8が抜けている。しかも、正解は本書に示されていない。

◯ チャンパーノウン数 0.12345678910111213… 小数部は自然数1から順に書いて並べてつくる数。循環しないし、終わらないので、無理数となる。しかも、超越数でもある。

◯ フィボナッチ的小数。フィボナッチ数列とは、n 番目の数は直前の二つの数の和、つまり、an = an-2 + an-1 というもの。たとえば、最初の2数を 1, 1 とすると、フィボナッチ数列は 1, 1, 2, 3, 5, 8, 13, 21, 34, 55, 89, 144 … となる。フィボナッチ的小数とは、上記のフィボナッチ数列を1桁ずつずらしながら足していくというもの。

0.1 + 0.01 + 0.002 + 0.0003 + 0.00005 + 0.000008 + 0.0000013 + 0.00000021 … = 0.11235950561…

分数に直すと、10 / 89 となる。

◯ グレゴリオ暦

1年の長さは、理科年表によると、365.24219日。それを連分数に直すと、

140306.pngとなる。4年一度の閏年、つまり、128年間32回の閏年から、1回だけ減らし、128年間31回の閏年にすれば、大変誤差の少なく、40万年で1日だけずれる、超高精度の暦が作れるとの説明。

◯ 無理数小数の連分数化

どの数からスタートしても同じ結果になるが、「数に1を加えて、平方根を取る」という操作を繰り返すと、1.61803398861136… になる。連分数に直すことも可能。

140306-1.png上記の数は黄金比と呼ばれる数で、(1 + √5) / 2 で表現される。

◯ 黄金比が無理数

本書で示した証明の仕方は、一般的な背理法ではなく、連分数で計算しても終了しないという方法を用いている。ただ、この証明に対し、疑問と感じた点があるので、記しておく。

疑問点1) 上記の連分数が黄金比を表しているとの証明は本書にない。
疑問点2) 終了しない連分数は無理数だとの証明は本書にない。

黄金比が無理数ということは、√5 が無理数であることと同義なので、結論自体は自明だが。

◯ 1.414213562 の正体

1.414213562 = 1 + 0.414213562 = 1 + 1 / 2.4142139 = 1 + 1 / (1 + 1.4142139)

と計算したところ、大胆に x = 1 + 1 / (1 + x) と式を立て、整理すると、x2 = 2 を得、正体が √2 と説明した。

◯ √2 、√3 が無理数である証明

背理法を使うのではなく、本書では連分数展開という手法を使って証明している。

具体的には、√2 については下式を使う。

140306-2.pngそれを繰り返し(情報科学的な言い方だど再帰的に)使うと、循環連分数が出来上がる。

140306-3.png√3 については以下の恒等式を使う。

140306-4.png再帰的に適用すると、循環連分数を得ることができる。

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なお、本書には説明されていないが、分子が全て1である場合の連分数は正則連分数という。

◯ 2次無理数

2次方程式の解となる無理数は2次無理数と呼ぶ。2次無理数は循環連分数で表現できることをラグランジュ(1736~1813年)が証明した。

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なお、正確には、2次無理数の正則連分数展開は必ず循環するという。

◯ 音階と連分数

数学の本にはなかなか出てこない話だが、本書第4章は音の周波数と連分数との関連に関する内容。純正律、平均律、ピタゴラス音律。

◯ 連分数による近似とその誤差

数 x を分数 p / q で近似しようとすると、その誤差は 1 / (2q) 以下である。一方、x を連分数で近似しようとして、分数 p / q が出てきたら、その誤差は 1 / q2 である。つまり、連分数による近似のほうがより高精度。

◯ 円周率 π の近似式

インド人数学者 ラマヌジャンは π を次のように近似した。

140306-7.pngその発想は恐らく以下の連分数を使ったとの推測。

140306-8.png16539という大きな分母が出る手前で打ち止めすると、精度の高い近似が得られるらしい。その原理は確かに自明。

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◯ 超越数を連分数で表現する

本書の最後に円周率 π、エイピア数 e の連分数表現を披露した。ほかの超越数を連分数で表現する研究が重要だと。

140306-a.png上の連分数は確かに循環式ではないが、ルールが存在している。しかし、どの超越数にもそういう美しい規則性があるとは思えない。数の神秘性はまだまだ解明されていない。

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