ユークリッド原論(以下原論」は最も有名な数学古典。その第1巻~第6巻はいわゆる幾何に関するものであり、ユークリッド幾何といわれるほど、よく知られている。ところが、第7巻~第10巻は整数や実数に関わるもので、注目度が比較的低い。現代の数学理論からみると、あまりにもレベルが低いと思われることが理由かもしれない。

しかし、現代の立場ではなく、2千年昔に戻って、当時の視点で読み直すと面白いと思うし、論述展開のプロセスが悟り、数学の本質をいっそう分かる可能性が潜んでいるかもしれない。

「論語」等の古典がいまでもよく読まれているので、新しいアイデアや考えが読むたびにわき出すことが古典力だと信じたい。

ということで、少しずつ第7巻~第10巻を読んでいく。

第7巻は23の定義からスタートし、命題39で構成されている。一般に「数論」と呼ばれる内容だ。

<定義1>
単位とは存在するもののおのがそれによって1とよばれるものである。

物理と違って、数学では単位について気を配ることはない。しかし、「原論」では、最初に「単位」が定義された。りんご1つを1と呼べば、りんご1つが単位となるし、りんご12個を1と考えれば、12個が単位になる。「よばれる」ところが主観であり、以下の①②が客観性を表す。

①存在するもの、②おのおの、という形容詞がとても重要。つまり、実在しないものに単位は付けられないし、実数のような連続したものにも、単位はつけられない。

<定義2>
数とは単位からなる多である。

「多」とはなにか、定義されていないところは残念。自分として、その後に書かれた内容と矛盾しない立場で考え、「多」とは「1以上」と理解する。

数学者の森毅氏が『数の現象化』(ちくま学芸文庫 2009年)20ページにおいて、こう書いた。「ギリシャ時代は、数は2から始まった。1は「数のモト」であって、「数」ではなかったのである。」

恐らく、森氏の勘違いであって、事実は違う。この定義2は曖昧だが、定義23(完全数の定義)をみると、1は約数にならないといけない。さらに、他の定義や命題を矛盾なく理解するには、1を特別な数(あるいは、単位数)と考えるのが妥当だろう。

定義2によって、数から、「ゼロ」や「負数」をハッキリと排除した。「ゼロ」や「負数」は「原論」でいう数ではないのだ。

<定義3>
小さい数が大きい数を割り切るとき、小さい数は大きい数の約数である。

「大きい」と「小さい」が出てきたが、単位にわけると、多いほうが「大きい」数、少ないほうが「小さい」数と理解する。

また、「原論」のこの定義によれば、自分自身が自分自身の約数にならない。すなわち、2は2の約数ではない。

<定義4>
割り切れないときには約数和である。

「約数和」という用語は定義せずに用いられたが、後の命題4の証明をみると、約数和は約数の和と同じ意味だ。

6の約数は1,2,3であり、約数和は4,5である。6自身は約数でもなく、約数和でもない。

★注:命題2において、2数のうちのひとつが、2数の公約数(あるいは、最大公約数)になりうるとのことが証明に書かれているので、自分自身の約数になってはいけないということでもなさそう。

<定義5>
そして大きい数が小さい数によって割り切られるとき、大きい数は小さい数の倍数である。

6は1,2,3の倍数。

<定義6>
偶数とは2等分される数である。

素晴らしい定義だ。2で割り切れることと同等だが、よりイメージしやすい。

<定義7>
奇数とは2等分されない数、または偶数と単位だけ異なる数である。

1ではなく、単位を使うところが「原論」の拘りだろう。また、奇数は偶数によって定義されることにも注意すべきだ。

<定義8>偶数倍の偶数とは偶数で割られて商が偶数になる数である。
<定義9>偶数倍の奇数とは偶数で割れれて商が奇数になる数である。
<定義10>奇数倍の偶数とは奇数で割られて商が偶数になる数である。
<定義11>奇数倍の奇数とは奇数で割られて商が奇数になる数である。

6は偶数倍の奇数でもあり、奇数倍の偶数でもある。また、12は偶数倍の偶数、奇数倍の偶数、偶数倍の奇数だ。定義8~定義11をすべて満足する数は存在しない。(定義11の)奇数倍の奇数は奇数で、他(定義8~定義10)は偶数だからだ。

<定義12>
素数とは単位によってのみ割り切られる数である。

1は素数かどうか、定義からは分からないが、素数でないと理解しよう。

<定義13>
互いに素である数とは共通の尺度としての単位によってのみ割り切られる数である。

ここにも単位が登場。当時の数学は頭の中の世界ではなく、自在する世界と強く結びついていたものかもしれない。

<定義14>
合成数とは何らかの数によって割り切られる数である。

あいまいだが、2以上、自分自身未満の数によって割り切られる数と理解しよう。精密性に関して、「原論」は思ったほど高くない例。

<定義15>
互いに合成的な(素でない)数とは共通な尺度としての何らかの数によって割り切られる数である。

<定義16>
数を数にかけるといわれるのは先の数のなかにある単位の数と同じ回数だけかけられる数が加え合わされて何らかの数が生ずるときである。

乗算の定義。3x2は、3+3の意味だと。乗算の結果としての単位は、定義では「先の数」、つまり3の単位だと示唆している。

<定義17>
二つの数が互いにかけ合わせて何らかの数をつくるとき、その積は平面数であり、その辺は互いにかけあわせた数である。

いまでは馴染みの薄い「平面数」の定義。乗算の積は、イメージ的に、点によってつくられた長方形ができあがる。実在世界と強く結びつくもうひとつの例だ。以下は3x4のイメージ。

140222.png

<定義18>
三つの数が互いにかけあわせて何らかの数をつくるとき、その積は立体数であり、その辺は互いにかけあわせた数である。

立体数の登場。4次元は実在しないので、4つの数の乗算は「原論」に絶対にあらわれないかな。要確認。

<定義19>
平方数とは等しい数に等しい数をかけたもの。すなわち二つの等しい数の積である。

日本語訳はいまいちだが、イメージ的には、正方形がつくられる。

<定義20>
立方数とは等しい数に等しい数をかけ、さらに等しい数をかけたもの、すなわち三つの等しい数の積である。

正立方体がつくられる。

<定義21>
第1の数が第2の数の、第3の数が第4の数の同じ倍数であるか、同じ約数であるか、または同じ約数和であるとき、それらの数は比例する。

a/b = c/d の定義のようだ。「原論」は数式をひとつも使わず、すべて言葉で式の意味を説明しているので、とてもわかりにくい。

<定義22>
相似な平面数および立体数とは比例する辺をもつ数である。

<定義23>
完全数とは自分自身の約数の和に等しい数である。

たとえば、完全数 6=1+2+3。

23の定義はこれでおわった。整理すると、数の性質は以下のとおり。

完全数とそれ以外。
素数と合成数。
倍数に対して、約数。関連して約数和。
偶数と奇数。
平面数(一部は平方数)と立体数(一部は立方数)、とその他。
互いに素、と、互いに合成(数をもつ)。

Comments are closed.

Post Navigation